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総合政策学部 総合政策学科

オープンキャンパス模擬講義「スマホ料金は高いの?安いの?―経済学的視点からの考察―」

2019.9.12
  総合政策学部准教授 久保田 茂裕

 8月に、オープンキャンパスで模擬講義を行った。テーマは、「スマホ料金は高いの?安いの?―経済学的視点からの考察―」である。これを取り上げたのは、楽天イーグルスとして、仙台に馴染みの深い楽天が携帯電話市場に参入してくること、管官房長官の「携帯電話料金は4割値下げする余地がある」との発言から携帯電話料金を巡る動きが活発化していたこと、私自身が事業者側と省庁側の両方の視点に立って調査を行った経験があり興味があることが理由である。

 ミクロ経済学の授業では、財?サービスの市場を分析するために、需要曲線?供給曲線を使って、市場メカニズムによる均衡価格の決定を学ぶ。その後、市場メカニズムが上手く機能しない要因の一つとして、今回の携帯電話市場にみられるような寡占市場における価格決定を学ぶ。市場に財?サービスを提供する事業者が複数社しかいない寡占市場あれば、市場メカニズムによる均衡価格より高い価格設定がなされる蓋然性が高いと言える。

 しかし、寡占だから価格が高いと短絡的にはいえなく、寡占でも事業者がきちんと競争をしていれば、市場メカニズムが導く適切な価格へ近づくはずである。ここが、携帯電話市場の料金を判断するうえで難しい所である。あまり高い料金でもないのに関わらず、政府主導で値下げを促してしまうと、逆に事業者の利潤が減ることで、社会的総余剰が減ってしまうことになるし、今後の5Gに代表されるようなネットワーク設備への投資がおろそかになり、新たなイノベーションが生まれないかもしれない。

 そこで、模擬講義では、定量的な情報として、総務省「電気通信サービスの内外価格差調査」を引用して、米、英、仏、独、韓における携帯電話市場の料金と比較して、日本の料金が高いかどうかを参加した学生に判断して頂いた。

当該調査では、日本の料金が高く示されていること、数年、料金が下がっていないことから、これを素直に捉えて、日本の携帯電話サービス料金は高く、第4の事業者として楽天が参入してくれば、競争が活発化し、料金は低下するだろうという主張が多くみられた。(当然、逆の主張もあった。高品質で便利なスマホをリーズナブルに使えているので、料金は安いとする意見である。日本の通信サービスは利便性が高く品質が良いので、この考えも最もといえる。)

 後は、10月に楽天が携帯電話市場に参入してきて、実際に競争が活発化して価格の低下が見られるかどうか、注目するところだったのだが、どうやら、目玉の世界初となる完全仮想化ネットワークの準備が間に合わなく、予定されていた10月には限定されたユーザーに対するサービスで、スモールスタートになってしまうそうだ。それを見越してなのか、各既存事業者の値下げへの動きも鈍い。9月20日の日経新聞の記事によると、10月以降も主要3事業者の料金は高止まりすると報じている。

 私としても、今回のオープンキャンパスや高校を訪問しての模擬講義の際に、10月以降、楽天が参入してきて料金は下がるだろうと言っていたので、非常にばつが悪い。経済予測をするには、予測をする際の前提が重要であり、前提が変われば、結果も変わるものだから、楽天の本格的な新規参入の時期がずれて、前提が変わったといえば、言い訳になるかもしれない。本格的な楽天のサービス開始は来年の4月になるそうだ。その後の価格低下に期待したい。