名車たちを前にして感じたこと
総合政策学部准教授 立花顕一郎
今年の3月中旬に学会発表のためカナダのオンタリオ州トロントに行ってきました。およそ20年ぶりに訪れたトロントについてはまた別の機会に書くことにして、今回はトロントからアメリカのミシガン州デトロイトに足を伸ばして訪れたヘンリーフォード博物館で経験したことをお伝えしたいと思います。
デトロイトへは学会発表を一緒に行った研究者仲間のご夫妻とレンターカーを借りて行ってきました。陸路でカナダからアメリカに入国する際には、アンバサダー橋というとても大きな吊橋を通ります。1929年(世界大恐慌の年!)に完成したこの橋の長さは全長が2,286mもあり、完成した当時は世界最長だったとのことで、橋の上から見る景色は一見の価値ありです。この橋を無事に渡りきると、デトロイト川にアメリカ側の入国審査施設があります。そこには機関銃を持った男性が数人いて、私たちを見るなり、荷物を全て持って車を降りて建物の中に入るようにと促しました。建物の中では予想外に念入りな審査を受け、40分?50分もかかってから解放されて車に戻ることができました。
実はこの橋を渡って入国審査を受けるのは初めてではありません。今回で10回目くらいです。私は1988年から2年間、ミシガン州の州立大学に留学していたので、当時日本から親戚や友達が訪ねてくるたびにアンバサダー橋を渡ってナイアガラの滝やトロントの中華街まで観光に行きました。この頃、入国審査にかかった時間はほんの5分ほどだったと記憶しています。やはり、2011年に起きた同時多発テロと、移民規制強化を唱えるトランプ大統領就任の影響で国境の警備が相当に強化されていると感じました。
さて、無事に国境を通過したわれわれ一行はほどなく目的地のヘンリーフォード博物館に到着しました。この博物館は隣接しているグリーンフィールド?ビレッジともどもエジソン学会が運営しています。どことなく日本の明治村を想起させるグリーンフィールド?ビレッジは、トーマス?エジソンの研究所やライト兄弟の自転車店、辞書編纂で有名なウェブスターの旧居など大変貴重な歴史的遺産が保存展示されているので有名です。しかし、残念ながら私たちが訪れた時には冬季閉館中でした。ミシガン州では冬はマイナス20度を下回ることがあるので、冬に見学に来る人が少ないため閉館は仕方がないことのでしょう。それでも、私たちが一番楽しみにしていたヘンリーフォード博物館の自動車の殿堂(Automotive Hall of Fame)はゆっくりと見学することができました。この施設には、T型フォードから、歴代アメリカ大統領の自動車、ヨーロッパの名車、さらにはトヨタ車や日産車にいたるまでが所狭しと展示されていて、車好きの人にとって一度は訪れたい自動車遺産の宝庫です。
個人的な話になりますが、私の実家は自動車整備工場とガソリンスタンドを営んでいたので、子どもの頃は工場にあった車輪付きの戸板のようなものに寝転んで整備中の車の下に潜り込んで遊んだり、夜遅くまで自動車を分解したり組み立て直したりする作業をながめていました。門前の小僧で1960年代後半の日本車の修理をたくさん見てきた私は、当時の日本車が技術的にアメリカ車よりも劣っていてトラブルも多かったことをよく知っていますので、今日、アメリカの自動車の殿堂に日本車が展示されるているのを見ると、改めて感慨深いものがありました。
しかし、今回、久しぶりに車の殿堂を訪れて、一番印象に残ったことは日本車の進歩ではなくて、意外にも、第二次世界大戦以前につくられていたアメリカ車のデザインがとても魅力的でカッコよく見えたことでした。かつて自分が30代で訪れた時には、むしろそれらの車をとっても冴えない車であると感じたことを今でも覚えています。どんな心境の変化なのか、自分でもうまく説明できないのですが、一つか二つ思い当たる理由があります。一つ目は、最近の新車が没個性的であるように感じることです。二つ目は古いものの中にも普遍的な価値があるのかもしれないと感じるようになってきたことです。ただし、二つ目については、自分自身の成長の結果なのか、それとも単純に歳をとったせいでそう考えるようになったのか、自分自身で結論に達していないというのが正直なところです。いずれにしても、ヘンリーフォード博物館は、大人でも子どもでも楽しめるところですので、機会がありましたらぜひ一度は訪ねてみてください。